他の国で商標登録をしたい場合、主に2つの方法があります。
一つは、その国の弁護士等代理人に依頼して、商標登録するという方法です(左下の図を参照)。
その国の資格を有する代理人をたて、その国の法律・規則等に従い、その国の言語で、その国の特許庁等官庁に対して、商標出願する必要があります。
もう一つは、マドリッド協定議定書(通称、マドプロ)という多国間で取り決められた仕組みを使い、国際登録をすることにより商標登録する方法です(右下の図を参照)。
この方法では、一つの商標出願を日本の特許庁に提出して国際登録することにより、そこで選択した国々での商標権を取得することが可能です。マドプロによる商標の国際登録の制度は、多くの企業等で活用されています。
特許庁作成のマドプロについてのパンフレットでは、マドプロの国際登録の主な利点として、以下の6点が示されています。
マドプロによる国際登録制度は、これらの利点を有する、出願人にとって非常に有益な制度であると考えますが、きちんと把握しておくべき落とし穴もあります。
まずはじめに、権利管理の際の手続きの流れを見てみましょう。
ここで「権利管理の際」とは、マドプロによる国際登録をしたものが、各指定国の審査の結果、商標登録が確定した後のことです。例えば、更新手続き等がこれに該当します。
たしかに、手続きの流れはかなりシンプル。
➡ 赤の矢印
赤の矢印は、国際登録の保有者(出願人)がしなければならない手続きの流れです。
➡ 緑の矢印
緑の矢印は、国際登録の保有者が関与せず、WIPO国際事務局と各国の官庁(特許庁等)の間で行われている手続きの流れです。
国際登録の保有者は、更新等の手続きをしたい場合、各国での手続きは必要なく、基本的には、WIPO国際事務局との間の一つの手続きだけで、すべての国の手続きが完了します。それらの国の代理人に手続きを依頼する必要がないため、代理人費用は不要です(日本の代理人が、WIPO国際事務局との間の手続きを行う場合は、その代理人費用は必要です)。
国数が多ければ、国ごとに手続きをする場合と比べ、時間的にも費用的にもかなりの負担軽減となるでしょう。
では、次に下の図をご覧ください。こちらはいかがでしょうか?
これは、国際登録出願を日本の特許庁に提出してから、各指定国での商標登録が確定するまでの手続きの流れです。
いかがでしょうか?
簡便な手続きとは言えないのではないでしょうか。むしろ、かなり面倒でやっかいそうです。
➡ 赤の矢印
赤の矢印は、国際登録の出願人(保有者)がしなければならない手続きの流れです。
➡ 緑の矢印
緑の矢印は、国際登録の出願人(保有者)が関与せず、WIPO国際事務局と各国の官庁(特許庁等)の間で行われる手続きの流れです。
➡ 青の矢印
指定した国の官庁が審査を行い、登録を拒絶するとの通報等がなされた場合に、国際登録の保有者がしなければならない手続きの流れです。
実際、指定した国からの拒絶の通報を受け取るケースは少なくありません。複数の国から同じような理由による拒絶の通報を受けてしまうケースもあります。
拒絶の通報に対応するためには、ほとんどの場合、その国の弁護士等の代理人を新たに選定し、手続きをする必要があります。当然、時間的にも費用的にも負担が追加で発生します。
マドプロによる国際登録について書かれている資料を見ると、その利点である「手続きの簡便性」や「費用の軽減」という言葉が目につきます。
しかし、各国での審査が行われる以上、出願して指定した国々で登録が認められるまでには、複雑な手のかかる、また費用もかかる手続きが必要となる場合があります。
その点についてよく理解した上で、マドプロによる国際登録の手続きを進めるとよいでしょう。
出願したあとで、指定した国で追加の対応が必要になり、出願当初には思ってもみなかった高額な代理人費用が発生し、
どうしよう~。こんなはずじゃなかった!!
とならないように、追加の対応や費用が発生する可能性はあるのだ、ということを認識しておく必要があります。
特許事務所にマドプロを使った商標登録を依頼する場合には、外国での商標権の取得や、マドプロによる国際登録に慣れており、外国の商標制度に精通した弁理士を選ぶことをお勧めいたします。
とはいえ、どんなにマドプロ出願に慣れた弁理士が担当しても、すべてのケースで拒絶の通報等の対応をゼロにすることは難しいでしょう。
ここで述べてきた内容の繰り返しにはなりますが、各国における審査の結果、追加の対応や費用が発生する可能性があるとの認識は持っておく必要があると思います。