カナダの商標制度が大きく変貌

2019年6月17日より、カナダの商標制度がガラッと変わります。

それ以前のカナダでの商標出願から登録までの手続きは、他国とはかなり異なる独自性のあるもので、気を付けなければならない事項が多い国の一つでした。そんなカナダの商標制度が、日本人としてはかなり取っ付きやすい、分かりやすい制度へと変貌しました。

 

またカナダはマドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル、略してマドプロ)の104番目の加盟国となりました。2019年6月17日以降、マドプロ国際出願でのカナダの指定(又は事後指定)による商標の保護が可能となります。

 

つまり、カナダはこの大変貌により、直接商標出願するにあたっては、より分かりやすいシステムになり、かつ、直接出願だけでなく、マドプロ経由での商標保護もできるようになったという、盆と正月が一緒にきたような状況です。

 

商標にまつわるニュースとしては、ここ数年で一番大きなニュースではないでしょうか。

 

でも実は、今回の変更を伴うカナダ商標法の改正は、2014年6月には既に裁可されていました。その後、実際に施行されるのが、5年もの長期間にわたり遅延していたというのが実情です。なので、間違いなく、商標関連としては大きなニュースではあるのですが、ご存じの方にとっては、「やっと変わるのか」といった感じかもしれません。

 

では具体的な変更点を見てみましょう。

 

カナダで商標を保護するためには?

今回の改正法発効により、2019年6月17日以降は、カナダにおいて商標の保護をしたい場合には、まずどういったルートで保護を求めるのか検討する必要があります。

 

カナダで商標権を取得したい場合、次の2つの方法から選ぶことができます。

  1. マドプロによる国際出願をして、カナダを指定国として指定する (既に国際登録をお持ちの場合は、カナダを事後指定することもできます)
  2. カナダに個別出願する

1のマドプロによる国際出願と、2の個別出願の違いについては、こちらをご参照下さい。

「商標サービス」→「外国での商標出願・マドプロ出願」からでも、開くことができます。

 

主な変更点

カナダは、今回新たに次の3つの国際条約に加盟しました。

  1. マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル)
  2. ニース協定
  3. 商標法に関するシンガポール条約

日本も、上記3つすべてに加盟しています。

 

主な変更点は以下の通りです。

  1. ニース協定による国際分類の区分制度の導入
    従来カナダでは、国際分類に関係なく、使用する(又は使用を予定する)商品・役務を列挙する方式を採用していました。その後、2015年からはニース協定加盟を視野に、ニース協定の区分を任意に記載することが可能でした。
    2019年6月17日以降は、区分に従って商品・役務を記載することが必須となりました。
    それにともない、料金制度も大幅に変更されています。出願料及び更新料が、区分数に応じて算出されます。
      
  2. 出願根拠の撤廃
    商標出願の際に、出願の根拠(使用意思に基づく出願、使用に基づく出願または外国登録等に基づく出願)を記載する必要がありましたが、この記載がなくなりました。これにより、出願手続きがかなり簡素化しました。
  3. 使用宣誓書提出の撤廃
    これまで使用意思に基づく出願の場合、使用宣誓書が提出されるまで、登録がなされませんでした。今後、使用宣誓書の提出は不要になります。日本からカナダに商標出願をする人・会社にとっては、時間的・費用的に、大きな負担軽減になるのではないでしょうか。当該変更は、既に出願中の場合も適用されます。
  4. 分割出願の制度導入
  5. 非伝統的商標制度の導入
  6. 存続期間の変更
    存続期間が登録から15年から、日本の商標権の存続期間と同じく、登録から10年になりました。
  7. マドプロへの加盟
    マドプロに加盟していない国は多々ありますが、その一つ、大国カナダ。満を持してのマドプロ加盟です。

あなたの商標は大丈夫?

2014年にこの商標法の改正が裁可されて以降、既に500件を超える商標出願が、全45クラスの商品・役務を指定して出願されているそうです。それらの出願ほとんどが、どうやらブランドオーナーによる自己の商標の保護・防御のための出願ではないようで、現地の専門家が警鐘をならしています。

 

どういうことかというと、2019年6月17日より前に出願することで、出願費用を区分ごとに支払う必要がなく、全45区分であっても安く出願できます。しかも、2019年6月17日を過ぎれば、拒絶理由がなければ、使用宣誓書の提出をせずに全区分での登録ができてしまうのです。

 

今後しばらくは、商標を先取りされてしまった企業等による、異議申立、不使用取消請求、侵害訴訟等の係争が頻発するのかもしれません。

状況をウォッチングしておくことをお勧めいたします。

 

去りゆく独自性 - 制度の平均化

世界各国それぞれの国には、それぞれ異なる商標保護のための制度があります。外国で商標の保護をするにあたっては、それぞれの国の異なる制度に合わせて商標登録を行い、また防衛の手段を講じる必要があります。

 

というのが前提ではありますが、異なる制度と言っても、実は基本的な土台となるルールがあります。

似通ったルールにするためにマドプロやニース協定等の条約が存在しているのであり、それら条約への加盟国数が年々増加していることからも、国家間における商標制度の差異は年々小さくなってきているように思います。

 

そんな中で、他国とは異なる独自のユニークなシステムを採用している国もあります。

その一つが、カナダでした。

今回のカナダの商標制度変更のニュースは、なにか特徴あるものが失われて、世界が平均化されていく、そんな寂しさを感じる感慨深いニュースでした。

 

情報通信技術の進歩などの影響により、国境をまたいで経済的な結びつきはより強くなっています。

ある雑誌によると、このままいくと、将来、世界のどこにいても、人々の暮らしや考え方は平均化されていくと考えられているそうです。世界のどこを旅しても、町の景観やにおい、服装、食べ物、慣習が同じになったとしたら、面白くないだろうなと思います。

 

同じように、商標制度も平均化され、似たような効率のよいシステムの国ばかりだとつまらないな、そんな感慨を覚えました。